【地獄の激痛日記】
Uploaded:2003.4.5

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2003年 3/26(水)

カルテットの練習・ミーティングが終わって深夜、右上3〜4番あたりの歯に何となく違和感を覚えるが、さほど気にせず3時過ぎ頃就寝。

3/27(木)

翌日9時過ぎに起きてみると、昨日の違和感が若干増していて少々痛みを感じる。仕事仲間が2人、昼過ぎから2時間ほど息子の顔を見に遊びに来るが、虫歯かな?と思う程度でそのまま昨日に引き続きカルテットの練習へ。吹いていると徐々に痛みが増してきて、練習開始後2時間経たずにリタイアさせてもらいそのままミーティングに入るが、やはり痛みは拡大して行って他の歯まで痛くなって来る。帰宅後も状態は悪化して、しまいには全ての歯が痛み出してその晩は一睡も出来ず。

3/28(金)

徹夜明けのまま朝一番でかかりつけの歯医者へ。レントゲンを撮ってもらったら虫歯ではなく、もっと奥の方が炎症を起こしているのでここでは無理、大学病院を紹介すると言われ、鎮痛剤(ソランタール)と化膿止め、紹介状をもらって帰宅。明日あさってときつい仕事を乗り切らなくてはならないので、この日の午後に入っていた高校のレッスンをキャンセルさせてもらい、そのまま紹介された大学病院の口腔外科へ。

診察の結果は急性化膿性歯根膜炎、治療済みで神経も取ってある右上4番の歯根に何らかの理由でひびが入って、そこから隣の3番との間に膿がたまって上顎の骨を解かし始めていると言う。膿がひどければ手術をするか、最悪右上3、4の2本を抜歯する事になるかも、との事。明日あさっての仕事のために今日は歯を残しておかなければならないので、取り敢えず噛み合わせが当たらないように削ってもらって鎮痛剤(ロキソニン)9錠と抗生物質を出してもらい、土日を挟んで月曜日の朝一番の診察を予約して帰宅。

神経が刺激されて全ての歯が異様に痛い。信じられないくらい痛い。全ての歯をペンチでねじ切られているようだ。3日分出ていた鎮痛剤を夜までに半分飲んでしまい、このままでは週末を越せないと思い病院に電話すると、明日11時に特別に薬を出してくれるとの事、激痛に耐えながら朝が来るのを待つ。

3/29(土)

口を閉じられずによだれは流れ放題、唇や舌、顎を動かす度に激痛で気が遠くなる。鎮痛剤は1回1錠・1日3回となっているが、1錠飲んで30分後に効かなければもう1錠も可、間隔は最低6時間あける、と言うものなので、2錠ずつを6時間間隔で飲んでいけば1日で8錠飲む事になる。大丈夫なのか?

しかしこの激痛には代えられない。1錠だとまったく効かないし、飲んでから効き始めるまでに2時間近くかかるし、効いている時間は2〜3時間程。これはもう2錠を6時間ごとに飲み続ける以外にはない。11時に病院へ行って事情を話し、もう少し強めの鎮痛剤(ポンタール)を9錠出してもらう。昨日の分の残りを足しても13錠しかない。今日明日これでもつのか?と不安を抱きつつそのまま仕事場へ。

この日は夕方から栃木の小山でカルミナ・ブラーナのリハーサル。健康な時でさえ部分的に苦痛を伴うきつい曲だ。アンブッシュア(楽器を吹く時の口の形)をつくるだけでも激痛を伴う。リハ開始2時間前にマウスピースを軽く口に当ててみるがやっぱりものすごく痛い。そろそろ鎮痛剤が効いて来る頃だと自分に言い聞かせながら徐々に口をいじめていくものの、弱々しい中音域を絞り出すのがやっとの状態でリハに突入する。

最悪の状態でリハを終えて、自分のトップというポジションの仕事をするのが無理と判断、明日の本番ではセカンドとチェンジしてもらう事にして長い帰路へ。長時間に渡って無理矢理口をいじめた後に鎮痛剤が切れてきたので、電車に乗って1時間しないうちに信じられないくらいの激痛が襲ってきた。もうどこが痛いのかもわからない。とにかく顔の下半分が死ぬほど痛い。

3/30(日)

木曜日の夜から食事・睡眠が取れないのはおろか、風呂にも入れないし歯も磨けない。おまけに激痛が続いたせいか熱が37度5分から一向に下がらない。歯の痛みはそのまま極度の肩凝りに派生して、頭痛もかなりひどくなってきたし、目の奥の方までなぜかキンキン痛む。今日は午前10時から小山でゲネプロなので7時過ぎには家を出るが、鎮痛剤のポンタールがもう残り少ない。金曜日の朝に近所の歯医者でもらったソランタールがまだ残っていたので、効かないとは思いつつもゲネプロはそれで乗り切ろうと2錠飲んでいく。

この日は朝からセカンドの席に着かせてもらい、昨日のリハ終了後の状態を考えてゲネプロではほとんど音を出さずに終了。昼休みには主催者側からオケに弁当が出されたが当然食べられず、朝コンビニで買っていった小さなおかゆを食べようとするものの、やっぱりかなりの痛みでほとんど食べられない。本番の2時間前になったので残り3錠になったポンタールを2錠飲む。あとは本番中にこれが少しでも効いてくれる事を祈るばかりだ。

ポンタールを続けて飲まなかったせいか、本番が始まると薬が効いてきたのがはっきり分かり、代わってもらったトップに助けられながらではあるものの、何とかステージ上の奏者や客席に大きな違和感を与えない程度の音は出せるようだ。昨日のリハ終了後の状態を考えるとこの後が恐ろしいが、今はそんな事を言ってはいられない。ステージに乗ってしまった以上、どうにかこの本番を乗り切らなくては。

脂汗を流しながら何とか本番終了。口の中全体が痛む中でも、右上4番の他に特に左上1番に強い痛みを感じるようになっていた。まだ薬は効いている時間のはずなので、とにかく急いで帰路に就く。家に着く6時半の少し前に薬が切れるのがはっきりと分かり、急激に昨日のあの激痛が襲ってくる。目は眩み半開きの口からはよだれが垂れていたに違いない。全ての歯をペンチでねじ切られている感覚に加えて、右上4番と左上1番が破裂するような猛烈な痛みだ。

家についてすぐに最後の1錠のポンタールを飲んで布団の上に座ると、数時間その姿勢のまま動けない。この状態でたった1錠の鎮痛剤が効くはずもなく、絶望的な痛みが一晩中続く。明日は朝9時から診察、生きている気のしないままとにかく時間が過ぎるのだけを待つ。苦痛に耐えかねて自殺する人の気持ちが分からないでもないが、やっぱり歯で死ぬのはイヤだ。

3/31(月)

朝出がけに鏡を見る。どこから見ても病人だ。目はくぼんで頬はこけ、痛くて剃れない無精髭が悲壮感に輪をかけている。鎮痛剤の乱用で胃もかなりやられていて下痢もひどい。病院に着いて9時ちょうどに診察を受ける。処置の内容から、口腔外科から総合へ移される。自分で触れる事が出来ないほど痛い右上4番に被せてある金属をはずすために周りを削り、金属のふちをのみのようなものでがんがん叩く。それはもう痛いの何の、目玉が飛び出す痛みとはまさにこの事だと思った。

今すぐに歯茎を切って膿を出せる状態ではないとの事で、被せてある金属をはずして神経を取った穴につめてあるものを薬で溶かし、そこに痛み止めと化膿止めの薬を流し込むのだそうだ。左上1番にも同時に激痛が走っていて、吸引用の器具が前歯に当たると飛び上がるほど痛い。神経の穴を膿の出口として確保しておかないと圧迫されて痛みがひどくなるそうで、穴には蓋をしないで処置が終了、明日の午後3時に消毒に来るように言われる。今日は約1時間の治療だった。

午後から実家の両親が孫の顔を見に遊びに来る事になっていて、予定通り1時に到着。病院から帰宅後すぐに鎮痛剤を飲んだものの、口の中をいじくりまわされて激痛が続いているので両親の相手は全面的に妻に任せて1人別室でうずくまる。相変わらず口の中全体が痛む中で、右上4番と左上1番のほかに左下2番あたりが激しく痛んでいるのがわかる。これはどうやら虫歯のようで、あちこちの神経が散々刺激され続けてもともと悪かった歯が痛み出したのだろう。

さらには上顎の数カ所が舌で触ると若干腫れているのがわかり、これもかなりの痛みを発している。鎮痛剤が効いてくると、今日処置をした歯は痛みが和らいでいる事がわかり、少しだけ希望の光が見えた気になる。しかし下の虫歯と上顎の数カ所の腫れ、そして何と言っても前歯である左上1番の痛みは相当なもので、両親の帰っていった少し後の5時頃には鎮痛剤も切れ、これらが猛烈な勢いで痛み出した。

明日の診察は3時、ちょうどその時間に入っていた生徒のレッスンをキャンセルさせてもらう。そのあと別の生徒の用事で楽器店に行く約束も入っているが、今の時点では行けるとも行けないとも言えないのでとりあえずキャンセルはせずに保留にしておく。激しい痛みの中、午前9時の診察を待つのも辛かったのに今回は午後3時まで待たなくてはならない。時間の経つのが何と気の遠くなるほど遅い事か。

4/1(火)

やっと訪れた診察時間。右上4番を消毒して、引き続き蓋をせずに終了。膿はまだ出ていないようだが注入した薬のせいか不思議とこの部分の痛みはもうさほどひどくない。ただし左上1番の痛みは半端ではなく、その歯の付近の上顎が腫れていて非常に痛い事を説明するが、上顎については見た目には何ともないので神経が刺激されているだけですぐに治まると、取りあってくれない。

しかし左上1番はまだ神経のある歯で、その神経は完全にやられている事が分かったので早速取ってもらう事に。極度に過敏になった歯茎に麻酔の注射針がぷすぷす刺さるのだからたまらない。何度声を上げた事か。麻酔の効きもかなり悪く、10分ほど間をおいて2度に分けてかなりの回数の針が入った。特に裏側、つまり腫れて痛む上顎側に針が入った時には本当に気絶するかと思った。

何とか神経を取り終わって今日は終了。何と次回の予約は金曜日との事。まるまる3日もある。しかも規定でポンタールは最大でもう8錠しか出せないと言う。ここまで乱用して来たのだから当然と言えば当然なのだが、どう考えても8錠ではまる1日しかもたない。病院を出ると間もなく麻酔が切れ始め、まずは今日の左上1番、そして左下2番、しまいにはやっぱり全ての歯が狂ったようにうずき始めた。楽器店の約束は当然キャンセル。

5時に帰宅してすぐに2錠飲む。あとはまた延々とこのどうにもならない痛みに耐え続けるだけだ。痛みは鼻の横あたりにまで達し、両目の奥の方の痛みもひどくなってきた。顔や頭、どこを触っても歯が痛い。熱も37度5分から一向に下がらないし、上顎の腫れもみるみる育ってきていて、これがまた打撲のようにずきずき痛む。この腫れのおかげで食事は全くと言っていいほど出来ず、体力はどんどん落ちていく。

4/2(水)

2時間ほど眠れて朝5時に起きると、上顎の腫れは大豆のように丸々と太っていた。触ると激痛が走るこの巨大な物体が前歯の裏に鎮座しているわけだから、それはもう何も口に入れられない。見た目には何ともないと昨日言われた事がどうしても信じられず、2枚の鏡を使って何とか自分で口の中を覗いてみると、確かに大豆の大きさの腫れがある。実に見事な腫れだ。これは痛いはずだ。

9時になるのを待って病院に電話を入れてみる。確かに大きく腫れている事を伝えると、抗生物質と歯に入れた薬が効いてくる筈だからやっぱり待つしかないそうで、これから見てくれないかという申し出は聞き入れてもらえなかった。あふれ出るよだれを飲み込むのも痛いし、吐き出すのも舌を使うのでどうしてもこいつに当たって痛い。今まで鎮痛剤が効いている間は何とかおかゆ程度のものが食べられたがもうだめだ。

そのポンタールが午前11時、ついに底をついた。市販の鎮痛剤サリドンに切り替えるが、妻の強い勧めもあって、これ以上の乱用は危険なので今後は定められた量を守る事にする。薬が効いていない時は上顎の腫れに刺激されて左下2番の虫歯とその近辺の歯が物凄く痛い。その痛みはすぐに下の歯全体に広がっていって身動きがとれなくなる。薬が弱くなったのでこの時間が圧倒的に長くなり、ただひたすら耐える事に。午後から高校のレッスンが入っていたがキャンセルさせてもらう。熱は37度8分まで上がる。

夜になると下の歯全体の痛みががかなりひどくなってきたので、気休めに左下2番付近の歯茎に正露丸を当ててみる。チョコラBBも併用。

4/3(木)

明け方近くに急に痛みが和らいできたので3時間ほど眠る。目が覚めると、巨大な大豆は大きさこそ保っているものの、今までより少し柔らかくなっていて、舌で触っても鈍痛を感じる程度だ。下の虫歯近辺の痛みもあまりない。午前0時過ぎにサリドンを飲んだきりなので、今は薬が効いていない時間のはずだ。試しに柔らかい物をいくつか食べてみるが、痛みはあるものの何とか食べられる。下がらなかった熱も平熱に近くなっているし、急速に快復しているらしい。

ついに痛み出してから一週間。昨日まで3日間全く楽器を吹いていない。こんなに長時間吹かないのは一体いつ以来だろう。今日もカルテットの練習・ミーティングが入っていたがキャンセル。昼過ぎ、実に1週間ぶりにそっと歯を磨いてみる。ついでに髭も剃ってみる。この勢いで風呂も、と思ったが若干痛みはあるし肩凝りからの頭痛も少しあるのでこれは我慢。しかし食べたと感じられる量の食事ができたのでまあ良しとしよう。夜までに小分けに4時間ほど睡眠を取る事ができて、身体もずいぶん楽になった。

夜になって久し振りにマウスピースを口に当ててみる。最初の数分間は全く振動しなかったが、徐々に唇が感覚を取り戻してきたようで音が出始めた。アンブッシュアを作る事自体に苦痛はないが、左上1番には直接マウスピースの圧力がかかるのである程度の痛みはある。完治するまで仕事を休む訳にはいかないので、この程度の痛みには徐々に慣れていくしかなさそうだ。食事・睡眠が取れて余裕が出て来ると、1週間で溜めてしまったパソコン上の仕事やらメールその他所用の多さに気付き、しばし愕然とする。

4/4(金)

午前11時、3日ぶりの診察。右上4番に再び薬を入れ直す。相変わらずこの歯は根っこのみで上がない状態のままだ。問題の左上1番は叩かれるとまだ相当に痛い。その裏の腫れも一度はしぼみかけたのに今日はまたぷっくりした大豆に戻っている。膿の出口を増やすために、大豆の中央辺りにメスで切り込みを入れるのだが、その作業のためにまたしても麻酔を打たなくてはならない。前回ほどではなかったものの、やっぱり痛くて声が出る。麻酔が効いてメスの痛みを殆ど感じなかったのが不幸中の幸い。

左下の虫歯はまだ手付かずの状態だが、昨日からこの痛みが落ち着いているのはたまたまで、またいつ激痛が襲ってくるか分からないと言う。右上4番、左上1番は膿が落ち着いたら最終的には共に抜歯になる可能性が高いそうで、左下の虫歯の治療もあわせて1ヶ月から数ヶ月は処置にかかるとの事。また仕事が出来なくなってしまってはたまらない。それより何より、またこんな地獄の日々に見舞われてはたまらない。じっくりと腰を据えてかかって行こう。でも治療費がかさむのもたまらない。

午後からは生徒のレッスン。昨日いっぱい激痛が来なかったので、一か八か今日はキャンセルしないでおいた。早めに行って音出しをしてみるが、やっぱり昨日試したマウスピースのみの場合と事情が違う。楽器をつけると抵抗感の違いからかアンブッシュアを保つのにかなりの苦痛を要する。ある程度以上の音域になるとマウスピースに圧迫されて左上1番がかなり痛むのもあって、生徒には申し訳ないが今日は手本なし、という謝罪付きでレッスンをする事に。

本来ならこの後夕方からカルテットの練習が入っていて、これも一か八かでキャンセルしないでおいたが、メンバーの1人が風邪でダウン、急きょ中止となった。良かったのか悪かったのか。レッスン終了後もしばらく口をいじめてみるが、やっぱりこの数日間のブランクは大きい。もとの状態に戻すまでにはかなりの日数がかかりそうだ。まあこれもじっくりと腰を据えてかかって行こう。

夜、実に1週間と1日ぶりに風呂に入る。頭も洗う。なんて幸せ。全身に油をまとっている感覚からやっと解放されて、ついでに胸に大きな傷のある息子を風呂に入れながら健康のありがたみを噛みしめる。昼間にいじめた歯も食事をするのに支障を来すほどには痛まず、この程度の痛みとならもうしばらくは付き合って行けそうだ。ただしこれがいわゆる前厄なら、来年にはどんな惨事が待ちかまえているのか、考えると恐ろしいのでやめておこう。

とりあえず激痛からは解放されたようなので、続編を書く事のないよう祈りつつ激痛日記は終了。 完



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